都立西高校訪問記

講師 渡辺悠樹 (理学系研究科物理学専攻 M2)

(カリフォルニア大学バークレー校Ph.Dコース1年)

私が出身高の都立西高でBAPの出張授業を行ったのは、留学開始から4か月後の冬休みのことでした。物理に興味を持つ高校生にとっては、研究に明け暮れる大学院生との出会いだけでも十分に新鮮であるはずですし、それに加えて東大の修士課程とUC BerkeleyでのPh.D課程のどちらも経験中というこの稀な境遇は、彼らのこれからの人生設計に大きな刺激になるだろうと考え、今回の強行スケジュールに及びました。

海外にいるとやはりなかなか高校側とのやり取りは難しくなりますが、それでも私の恩師の先生が未だ都立西高校に残っておられたため、出張授業の了承は問題なく得ることが出来ました。国際電話と電子メールだけで連絡を取り合い、詳細を詰めていきました。 授業の対象は受験も間近の3年生のうち、物理選択の希望者になりました。

さて具体的に何を話そうかと考えてみると、自分の研究は「紙と鉛筆」での抽象的な計算ばかりで、高校生を惹きつけるインパクトのある実験結果や美しい数値計算結果はありません。そこで私は自分の研究の話は簡単に紹介するに留め、高校生の今後にとって有意義であるよう以下の二つの話に半分以上の時間を費やしました。

量子力学・一般相対論・統計物理学などの大学で勉強する物理は、高校の物理の大部分を占めるニュートン力学からは想像もつかないような現象、例えばダブルスリットによる電子の干渉効果・重力レンズ効果・超伝導現象などを次々と説明・予言していきます。「高校で勉強した物理の向こう側に、こんなに新しいびっくりするような現象が待っている!」まずはそんな印象を持ってもらうことを目標に話しを進めました。

さらに、高校はもとより大学学部までに学習する内容は既に完成された理論・学問を人から教わるという一方的なものでした。しかし研究を始めて実感することは、はるか昔から多くの研究者の手によって少しずつ発展してきたこの学問も、まだまだ完成には程遠いということです。ですから私達大学院生は、自分の研究が未知の世界に向かうこの時代の一歩を担っているという自負があります。これが一番彼らに伝えたいことでした。

これらのメッセージを少しでも分かりやすく伝えようとしてパワーポイントの準備に気を取られ、肝心な直前の確認を怠ったばっかりに、当日はプロジェクターの設備が用意されていないなどの問題が起こってしまい、40分の発表をやりきるだけで手いっぱいとなってしまいました。

それでもアンケートの結果をみると参加してくださった50名程度の生徒さん達は楽しんでくれたようでなによりでした。留学に関しても、海外での生活には興味を持ってくれたようですし、留学してみたいと思ったという感想も頂いたので、私の思いは彼らに十分通じたのではないかと期待しています。

最後に、今回の身勝手な強行スケジュールをサポートしてくださったBAP関係者の皆様に感謝させていただきたいと思います。ありがとうございました。