湘南高校訪問記

講師 島田昭仁 (工学系研究科都市工学専攻 D3)

 まず、私の出張授業の目的は大きく3つありました。
 一つ目は、母校への償いです。かつて学部生のころ教職免許の実習を母校で行う予定でしたが、その時(留学と引き換えに)ドタキャンしてしまったことへの罪ほろぼしです。当時、社会科の場合は毎年1人採るかどうかの狭き門でした。他に3名の候補者がいた中で採用してくれたにもかかわらず、一身上の都合で恩をあだで返すような失態をしてしまいました。そしてそれがずっと重石になっていたのです。
 二つ目は、母校への好奇心です。湘南高校はノーベル賞を受賞した根岸さん(東大工学系の出身)をはじめ多くの東大OBを輩出してきた進学高ですが、神奈川県から平成19年に「学力向上進学重点校」に指定されるなど、学力低下が懸念されていました。そこで実際、生徒がどのように変わったのか、変わっていないのか見てみたいなという気持ちが興味本位で湧いてきたのです。
 三つ目は、自分のプレゼン能力向上のためです。都市工学というのはアウトリーチ活動が盛んで、市民の前で講義をする機会も少なくないのですが、だいたいにして、話が難しいとか専門的すぎるとか言われてきました。そこで、高校生にも分かるようなプレゼンができるようになれたらいいなと日ごろから考えていたのです。

 次に、当日までの準備についてです。
 私の場合、今年の2月にBAP説明会に出て3月の頭にKick off meetingに出て、直後に高校側にメールしました。
 その返事が返ってきたのが4月の下旬で、その要望にお応えして、第1稿を送ったのが5月10日、第2稿が5月12日、そして第3稿を持って同月20日に高校で先生方と打ち合わせして、同月21日にBAPで練習会、同月31日に本番という非常に急ピッチな流れでした。
 そんなわけで、虎の巻(*)もほとんど参照せず相談員にも相談せず、21日の練習会の後、居残りで宮武さんと白川さんに個人指導を受けて、どうにか「たたき台」ができた・・・という感じです。

 さて、出張授業の当日、玄関で靴を脱いでいたら背後に気配を感じ、振り向いてみたらなんと、かつて教職免許の実習をドタキャンした時の担当の先生が迎えている・・・しかも副校長になっているではありませんか。まさに「孫悟空の釈迦の手のひら」を思い出しました。
 私の授業は2年生全員の320名が体育館で行われました。同日、1年生も3年生も文化講演会が行われている都合で、私は最も音響効果の悪い体育館があてがわれ、プロジェクターの映写も壁に映し出されるため、小さな文字は厳禁と言われ、スライド1枚に文字が平均5行程度という過酷な条件の下で断行されました。また、副校長の前置きが20分もかかり、持ち時間が50分になりましたが、何回も自分で練習を重ねていたのでアドリブで時間を調整しながら予定の時間ぴったり終わらせることができました。
 終わってみると約1時間の中、全生徒が最後まで私語も出さずに座ったまま我慢強く聴いてくれました。アンケートでは約半分の生徒が面白かったと答えてくれました。
 後半は社会学と都市工学について少々難しい話をしたにもかかわらず、320名中の約30名が社会学や都市工学に興味を持ってもらったようで、とてもラッキーです。また、現在の高校生は、飽きると最後まで授業を聞いてくれないという話を事前に聞いていましたが、興味を持ってくれなかった生徒も最後まできちんと聴いてくれたみたいで、そのことも大変ありがたく、感謝の気持ちになりました。

 振り返ると、今年の前半はこの出張授業に青春をかけたような充実感でいっぱいです。みなさんもぜひ、この機会を大切にしてチャレンジしてみてください。

*虎の巻:BAPのこれまでの経験を集約した,出張授業をする際のガイドラインのこと